2016年1月12日火曜日

カール・サンドバーグの『シカゴ詩集』を読む

 米国の詩人カール・サンドバーグ(1878~1967)の『シカゴ詩集』(1916)を読んだ。原稿執筆のための資料としてでなく、楽しむための年頭読書用に買い込んであった中から選んだ本である。安藤一郎訳、岩波文庫、560円。

「シカゴ」
 世界のための豚と殺者、
 機具製作者、小麦の積み上げ手、
 鉄道の賭博師、全国の貨物取扱い人。
 がみがみ怒鳴る、ガラガラ声の、喧嘩早い
 でっかい肩の都市。

 この最初の詩を読んでピンと来た。案の定、移民、労働者、女工、黒人、波止場、文明批判、戦争、アステカ民族、ジャック・ロンドン、オマール・ハイヤーム、ジプシーなどが次々に出てきた。欧州からの移民労働者にはイタリア人が盛んに登場する。ナポリ民謡の「遥かなるサンタルチーア」や「カタリ」を思い出した。

 「二人の隣人」は、「二つの不滅の顔がいつもおれを見ている。一人はオマール・ハイヤームと例の紅い飲みものさ、」で始まる。サンドバーグも、あの『ルバイヤート』を愛したのだ。

 著者がプロレタリア詩人だったころの詩集だが、ジャーナリストでもあった著者は、おそらくジョージ・オーウェルの著作も読んでいたのではなかったか。

 リンカーン伝6巻の大作も物にしている。1898年の「米西戦争」時、歩兵部隊の一員として、スペイン植民地だったプエルト・リコに出兵、8ヶ月間駐屯した経験の持ち主だ。

 この戦争は、スペイン軍を相手に独立戦争を長らく戦っていたクーバ独立軍が間近に見据えていた勝利を米国がかっさらった不正な帝国主義戦争だった。ヘンリー・ソローは、同じく不正な戦争だった「米墨戦争」を批判し、払税を拒否した。サンドバーグがソローを読んでいたのは想像に難くない。

 この詩集は第一次世界大戦のさなかに世に出た。この大戦が「米西戦争」と二重写しになって著者の脳裡を駆け巡っていたのは疑いない。

 「人夫たち」は、次のように締めくくられている。

「それを眺めている二十人の中の十人はつぶやく、<おお、なんという酷い仕事だ> あとの十人は言う、<どうか、おれにも仕事があるように>と。」