2016年12月23日金曜日

 米国は他国への主権侵害を省みずにロシアのトランプ勝利工作を非難できない-作家アリエル・ドルフマンが厳しく指摘

 チリ人で米国籍を持つ著名な作家・劇作家アリエル・ドルフマンはこのほど、ロシアがドナルド・トランプ共和党候補を先の米大統領選挙に勝たせるため介入した件について論評をNYT紙に載せた。以下は、その要旨。

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 ロシアがトランプを勝たせるため大統領選挙に介入した事実が多くの米国人を怒らせているが、私は自分が抱いてきた怒りをあらためて思う。1970年10月22日、チリで国軍司令官レネー・シュナイデル将軍が極右勢力に銃弾3発を浴びせられ暗殺された。同年9月初め大統領選挙で得票1位になっていたサルバドール・アジェンデを政権に就かせないために、CIAがチリの極右勢力を使って決行した事件だった。

 私は当初からCIAの陰謀だと感知していたが、その事実が後に証明された。当時のニクソン米政権は巨額のチリに資金を投入しながらアジェンデ当選を阻止でなかった。ニクソン政権は、公正な福利実現のためのアジェンデによる非暴力革命が許せなかったのだ。当時、国中に軍事クーデターの噂が流されていた。以前、イラン、グアテマラ、インドネシア、ブラジルなどで米国益に反する諸政府が倒されていた。シュナイデル将軍はクーデターに反対したため、暗殺されたのだ。

 暗殺はアジェンデ就任を阻止できなかったが、CIAはキッシンジャーの命令を受けて、その後3年間、チリの主権と経済に攻撃を仕掛け続けた。その結果73年9月11日のクーデターでアジェンデ政権は崩壊、大統領は死んだ。拷問、処刑、迫害を恣にした軍政が16年半続くことになる。

 チリなどの主権を侵すことを厭わなかったCIAが今、手法をロシアに真似されたことを嘆くとは皮肉なことだ。私は、その皮肉を味わうことはできても、痛快さを感じることはなかった。米国籍を持ち先の大統領選挙で投票した私は、新たな外国による介入の犠牲者になったのだ。私の落胆は、個人の弱さを超えた所にある。

 米国の有権者は、チリ人が被ったような目に遭ってはならないという手段的倒錯がある。本質は、どのような国であろうと、自国の運命が外国に操作されてはならないということだ。

 人民の意志を侵害する今回の事件を過小評価してはならない。トランプと取り巻きたちは、勝利はロシアのお陰ではないと否定しているが、彼らの反応は、我々がチリへのCIA介入を糾弾した時のチリ反政府勢力が示した反応とそっくりだ。トランプは「馬鹿げている」、「ありえない」、「陰謀論にすぎない」と、当時のチリ反政府勢力と同じ言い回しをしたのだ。

 チリの場合は、米議会上院のチャーチ委員会が1976年に発表した勇気ある調査結果によって、CIAの犯行が明らかにされた。米国は、共産主義から救うとの口実で他国の民主政治を破壊していた。平和共存・相互尊重という自由と自決の基本原則が今回は米国で蹂躙された。

 ならば、民主への信頼回復を図るにはどうすべきか。公開捜査し、米国内の勢力と国外勢力が共謀したか否かを含め付きとめて、責任者を最も厳しく罰することしかない。トランプ次期政権の正統性は、ヒラリー・クリントン民主党候補が得票総数で(300万票も)上回っていたいたことで既に損なわれている。

 しかし米市民には、政治家や諜報機関が何をしようと、為すべき崇高な使命がある。この嘆かわしい矛盾を正さねば、米国の価値、信頼、歴史は終わりのない不信感に満ちた内省を招くことになるだろう。

 米政府は、米国が為してきた他国市民への侵害と向き合うことなしには、米国民への侵害を非難することはできない。この自己検証の結果として、米国は他国への帝国主義的かつ傲慢な介入をもはやしない、という結論に達しなければならない。

 米国が己の姿を鏡で見つめる好機ではないだろうか。エイブラハム・リンカーンの国が己の真正な責任と向き合う好機ではないだろうか。

▼ラ米短信  ◎ボリビア大統領がメルコスールに警告

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は12月22日ラパスで記者会見し、南部共同市場(メルコスール)に対し、「米州諸国機構(OEA)は1962年にイデオロギー上の理由でクーバを追放したが、メルコスルールは今、同じ理由でベネスエラを追放するという過ちを繰り返してはならない」と警告した。

 モラレスはまた、「米国の差し金でメルコスールはベネスエラ追放という過ちを犯しつつある。米国がCELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)の前進を阻もうとしているのは嘆かわしい。米国は、民営化政策を進めるAP(太平洋同盟)を使って南米諸国連合(ウナスール)を分断しようとしている」と指摘した。