2017年8月21日月曜日

 ベネズエラが「対話」のため国際会議を呼びかけ▼「リマグループ」は制憲議会(ANC)による国会権限奪取を糾弾▼オルテガ前検事総長はコロンビアに亡命か

 ベネスエラのホルヘ・アレアサ外相は8月19日、マドゥーロ政権と反政府勢力との対話を実現するため国際会議を開くべく、関係諸国に呼びかけた。


 ベネスエラの制憲議会(ANC)は18日、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDが支配する国会の立法機能を剥奪、ANCに移した。


 これに対し、米州の親米・反ベネスエラ12カ国(亜伯パラグアイ智秘コロンビア巴CRホンジュラス・グアテマラ墨加)は19日、ANCの国会権限奪取を厳しく糾弾した。


 同12カ国は、自分たちを「リマグループ」(グルーポ・デ・リマ)と呼んでいる。先にリマ市で外相会議を開き、ANC開設を認めず糾弾したのに因む。今回、再度リマで外相会義を開いた。


 米国はベネスエラと敵対している関係で、「リマグループ」には参加していない。同グループの「中立性」を装うためだ。米国と同グループは、米州諸国機構(OEA)の「米州民主憲章」をベネスエラに適用し、それを根拠として同国に介入する戦略を維持している。


 一方、ANCに検事総長を解任されたルイサ・オルテガは18日未明、パラグアナ半島から快速艇で脱出し、カリブ海沖の蘭領アルバに到着。そこから空路、コロンビアの首都ボゴタに着いた。政治亡命と受け止められている。


 マドゥーロ政権は3月末、国会機能を最高裁憲法法廷に移したが、これに真っ先に異論を唱えたのが、当時のオルテガ検事総長だった。大統領は身内から厳しく批判され、決定を取り下げざるを得なくなった。


 MUDは、この大統領の朝令暮改の大失態を受けて反政府行動を一挙に激化させた。それに起因する街頭暴力事件および、その関連で125人が死亡、1500~2000人が負傷した。


 政権は、窮地を打開するため8月4日、「万能のANC」を開設した。そのためのANC議員選挙を7月末実施したが、MUDは「違憲」として認めていない。


 カラカス中心街の国会議事堂内にMUDの国会と政権のANCが共存する異常事態となったが、ANCは計画通り国会機能を奪取した。

2017年8月13日日曜日

 ベネズエラANCのデルシー議長がトランプ発言を糾弾▼ペンス米副大統領が13日からラ米4カ国歴訪へ▼ANCは中央選管指導部を信任▼フレイ元チリ大統領毒殺犯6人を断罪へ

 ベネスエラ制憲議会(ANC)のデルシー・ロドリゲス議長は8月11日、ドナルド・トランプ米大統領による対VEN軍事攻撃の脅迫発言を受けて、ANCが対処について審議したことを明らかにした。デルシー議長は、「米大統領による卑劣、傲慢、破廉恥な脅迫を糾弾する」と表明した。

 議長はまた、「国家最高機関である大統領ニコラース・マドゥーロへの攻撃は、反帝国主義のVEN人民によって一蹴されよう」とも述べた。

 米大統領はHマクマスター安保担当補佐官らと協議した後、「軍事的選択」を口にしたが、マクマスターは先週、「マドゥーロに責任を米国に転嫁する口実を与えないのが肝要」と語っていた。トランプ発言は「好戦的米帝国主義」という攻撃理由をマドゥーロ政権に既に与えてしまったことになり、同補佐官と大統領の間に政策の食い違いがある、との指摘がなされている。

 弾劾に繋がる対露癒着疑惑の捜査で窮地に陥りかねないトランプが、ベネスエラを軍事攻撃してマドゥーロ体制を破壊し、人気を勝ち取り劣勢を挽回する誘惑に駆られているのではないか、とする見方が成り立つ。その体制破壊作戦を、「核威嚇」を続ける北朝鮮への「見せしめ」にする、という計算もありうるだろう。

 だがら、チレ外相は逸早く危険を察知し、軍事攻撃への断固反対を打ち出した。マイク・ペンス米副大統領は13~18日、コロンビア、亜国、チレ、パナマを歴訪、4カ国首脳と「ベネスエラ対策」を含め話し合う。トランプ発言は、この歴訪に「軍事的選択」という枠をはめてしまった。

 一方、ANCは11日、ティビサイ・ルセーナ理事長以下4人の国家選挙理事会(CNE=中央選管)執行部を信任した。これにより、年内に実施される予定の州知事選挙を含め、今後の選挙や国民投票は現行CNEが推進することになった。

▼ラ米短信    ◎フレイ元チレ大統領暗殺で断罪へ

 チレ検察は8月11日、エドゥアルド・フレイ元大統領を1982年1月22日、首都サンティアゴ市内のサンタマリーア診療所で毒殺した犯人集団6人に求刑することを決めた。フレイは、当時のピノチェー軍政に反対していた。被告6人は、元秘密警察要員2人、フレイの元自動車運転手1人、医師3人。近く判決となる運びだ。

 フレイの娘カルメン・フレイ元上院議員は、「これで気持ちが晴れた」と語り、ピノチェー軍政による暗殺実行という重罪をあらためて指摘した。ンーベル文学賞詩人パブロ・ネルーダもピノチェークーデター直後の1973年9月、同じサンタマリーア診療所で謎の死を遂げており、軍政に毒殺された可能性が濃厚となっている。10月には、その最終的判断が公表される見込み。 

2017年8月12日土曜日

★トランプ米大統領がベネズエラへの軍事攻撃も選択肢と表明▼ピノチェー軍政の苦い経験持つチリはトランプ発言を糾弾▼制憲議会(ANC)は州選挙の10月実施を審議▼新検事総長は検察庁の腐敗を摘発

 ドナルド・トランプ米大統領は8月11日、休暇先のニュージャージー州で記者団からの質問を受けて、「ベネスエラに対し必要ならば軍事的選択をすることももありうる」と述べ、軍事攻撃する可能性が残されていることを示唆した。

 トランプは、レックス・ティラーソン国務長官、Hマクマスター安保担当補佐官、ニッキ・ヘイリー国連大使との会談後、記者団と会った。米国防省は同日、現時点でベネスエラへの出撃命令は受けていない、と述べた。

 大統領の軍事的脅迫発言は、ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権および支持派人民を「抗米」で団結させる一方、保守・右翼野党連合MUD内の極右勢力にテロリズムや破壊活動を焚きつける効果を持つ。

 米国は、ブッシュ政権が2002年4月にチャベス前VEN政権打倒の軍事クーデターを仕掛けて失敗。オバマ前政権は15年、ベネスエラを、あろうことか「米国の安全保障にとって重大な脅威」と位置付け、マイアミに司令部を置く米南方軍を中心にクーデター計画を練ってきた。

 当時の南方軍司令官だったジョン・ケリーが今やトランプの首席補佐官に収まり、軍事攻撃の可能性が増している。また共和党極右クーバ系2世の上院議員マルコ・ルビオが強硬策をトランプに入れ知恵してきた。

 ベネスエラのエルネスト・ビジェガス情報相は11日、「シモン・ボリーバルの祖国に対する、かつてなかったほど傲慢で重大な脅迫だ」と指摘した。またブラディーミル・パドゥリーノ国防相は、「極端極まりない、常軌を逸した言動だ」と糾弾した。

 チレのエラルド・ムニョス外相は首都サンティアゴで、軍事侵攻の脅迫を糾弾した。1973年に米国に支援された流血の軍事クーデターでアジェンデ社会主義政権を倒されたチレだが、同政権の流れを汲むバチェレー現政権は、軍事侵攻絶対反対の立場をとっている。

 ヂウマ・ルセーフ前伯大統領は、米国がベネスエラ攻撃の材料にしてきた内外報道について、「右翼が起こした暴力事件であるのに、メディアは無責任で馬鹿げた報道をしてきた」と厳しく批判した。

 これに対しトランプ政権べったりのPPクチンスキ秘大統領は11日、ベネスエラのディエゴ・モレーロ駐秘大使に国外退去を命じた。マドゥーロ大統領は、報復としてペルー臨時代理大使に退去を命じた。秘大使は既に本国に召還されている。マドゥーロは、「PPクチンスキはベネスエラの敵であり、ラ米統合の破壊者だ」と非難した。

 一方、ベネスエラ制憲議会(ANC)は11日、12月10日実施予定の州知事・州会議員選挙を10月繰り上げ実施するための審議を開始した。

 パドゥリーノ国防相は11日、バレンシア市の陸軍基地を6日攻撃した武装集団の首謀者フアン・カグアリパーノ国警隊退役大尉と、現役中尉ジェファーソン・ガルシアをカラカス市内で逮捕した、と発表。「極右テロ集団に打撃を与えた」と述べた。

 タレク・サアブ検事総長は、「官僚主義と腐敗だらけの検察庁を掃除している。幹部職250人を調査のうえ更迭しており、全国24支部検事長も交代させつつある」と明らかにした。賄賂の有無で起訴するか否かを決めることもあったという。

 ビジェガス情報相は10日、カラカス市内に創設された「ラ米伝達大学」(ULAC)の開学式で、「学生は、国際メディアの虚偽報道に対抗するジャーナリズムを学ぶ」と強調した。

 ANC議員ディオスダード・カベージョ(政権党副党首)は9日、カラカスの米大使館に勤務するVEN人退役大佐1人を8日逮捕した、と明らかにした。この男は、カベージョの所在を調べ回っていたという。

2017年8月11日金曜日

 キューバのラウール・カストロ議長が「激しい闘いの日々が来る」と、マドゥーロ・ベネズエラ大統領への書簡で表明▼制憲議会(ANC)は州選挙に参加する極右に「善良宣誓」を要求▼「軍人の極右地下武闘結社」が意思表明

 ベネスエラ大統領政庁(ミラフローレス宮殿)は8月9日、ラウール・カストロ玖国家評議会議長からニコラース・マドゥーロ大統領へ宛てた親書の内容を公表した。ラウール議長は、VEN制憲議会(ANC)発足に「革命的大歓喜」を表明している。

 書簡は8日、カラカスで開かれたALBA(米州ボリバリアーナ同盟)外相会議に出席したブルーノ・ロドリゲス玖外相からマドゥーロに渡された。ラウールは、「国際的圧迫によって激しい闘いの日々が来るだろうが、それはVEN人民にとって創造と労働の日々になるだろう」と、懸念と激励を表した。

 さらに、「VENは独りではない。クーバは大義に忠実であり、同志的連帯の最前線にいる」と、同盟関係を強調した。エネルギー源の約半分をベネスエラに依存しているクーバにとって、VEN情勢は極めてゆゆしいことだ。

 米政府は9日、故ウーゴ・チャベス前大統領の実兄アダン・チャベスANC議員ら高官8人の「在米資産凍結」、「査証発給制限」などの「制裁」を科した。理由は、8人が議員になるなど「何らかの形でANCに関与したため」とされている。

 これに対し、ホルヘ・アレアサVEN外相は同日、ラ米諸国大使との会合で、「シモン・ボリーバルの国の人民を<制裁>する道徳的権利はいかなる国にもない」と反駁、米政府を糾弾した。

 ANC議員で政権党PSUV副党首の実力者ディオスダード・カベージョ(元国会議長)は9日、年末の州知事・州会議員選挙に立候補する者は「2度とベネスエラを炎上させるようなことはしない」と宣誓し、ANCから「善良証明書」をもらわねばならない、と述べた。

 これは4月から一連の街頭暴力事件を起こしてきた保守・右翼野党連合MUDの、極右含む諸政党が12月10日の州選挙参加を決めているのを受けて、出馬に条件をつけたもの。

 最高裁は、カラカス首都圏エル・アティージョ区のダビー・スモアンスキ区長を9日、禁錮15か月の実刑に処した。区内での反政府暴力を許したため。同様に首都圏チャカオ区長、バルキシメト市長、メリダ市長も禁錮刑を適用されている。

 ANC発足を機に、マドゥーロ政権は暴力行使の責任者への対応が甘かったのを反省、「無処罰」路線を止めた。

 一方、反政府勢力の機関紙役を務めてきた右翼紙エル・ナシオナルは9日、武闘地下結社「レシステンシア」(抵抗)のビデオメッセージを掲載した。結社は、「現役および退役軍人集団」を名乗り、「対話と選挙の時は終わった。マドゥーロ政権打倒のための<ダビー作戦>を開始する」と主張している。

 結社はバレンシア市で6日、陸軍基地を襲撃して逮捕されたフアン・カグアリパーノ(元国警隊大尉)の集団と一体化する、とも述べている。ベネスエラ政府当局は、MUD極右やCIAが結社に関与していると見ている。
  

2017年8月10日木曜日

 国連「国際先住民族の日」に記念行事▼ボリビア大統領は「先住民族運動は反帝国主義」と指摘▼メンチューは「人種主義者は教義の犠牲者」と見なす▼メキシコでは先住民族の政治運動が進展▼米国がキューバ外交官2人退去させる

 国連「国際先住民族の日」の8月9日、LAC(ラ米・カリブ)各地で記念行事が催された。ボリビアのエボ・モラレス大統領(アイマラ人)はサンタクルース市での記念式典で演説、「500年の偉大な闘争を経た先住民族の運動は自動的に反帝国主義になった。なぜなら反植民地闘争であるからだ」と指摘した。

 1992年のコロンブス米州到着500周年にノーベル平和賞を受賞したグアテマラ・マヤ民族のリゴベルタ・メンチューは、授賞25周年を兼ねた式典で、「人種差別主義者は加害者というよりも、自らの教義の犠牲者だ」と強調した。

 LAC地域の先住民族は522民族。ブラジルは241民族だが、その合計人口は73万人と少ない。コロンビアは83民族で、人口は139万人。メヒコは67民族、950万人と人口は最も多い。ペルーは43民族、392万人。LAC先住民族の87%はメヒコ、ボリビア、ペルー、グアテマラ、コロンビアに住む。エル・サルバドールは3民族で、1万3000人と少ない。

 サパティスタ民族解放軍(EZLN)が1994年元日に蜂起したメヒコのチアパス州は、州人口1570万人の14・2%が先住民族。チャムーラ、ララーインサルなど41市にツェルタル、ツォツィル、チョル、ソケ、トホラバルなど12民族が住む。

 州都トゥーストラグティエレスでは7日、全国先住民族会議(CNI、1996年発足)とEZLNの会合が開かれ、「先住人民開花の時が来た」という名称の市民協会が設立された。

 CNIは今年5月、先住民族女性マリーアデヘスース(愛称マリチュイ)・パトゥリシオ=マルティネス(57)を、2018年7月のメヒコ大統領選挙に出馬する初の先住民族統一候補に選んだ。「2度と先住民族抜きのメヒコ政府をつくらないように」との願いからだ。

 今会議では、各州政府、組織犯罪集団、鉱山・石油・電力・森林業者らによる暴力、土地奪取、水源破壊などが日常的に起きていることがあらためて指摘された。

 パラグアイでも6日、「パラグアイ多民族先住民政治運動」が結成されている。

▼ラ米短信    ◎米国がクーバ外交官2人退去させる

 米国務省は8月9日、在米クーバ大使館の外交官2人を5月23日、国外退去させたと発表した。昨年秋、ハバナの米大使館外交官数人が、外交官宿舎で原因不明の聴覚障害に見舞われたのに対する報復的措置だった。クーバ政府は関与を否定している。

2017年8月9日水曜日

 ペルーのリマで米州諸国が外相会議開催▼採択の「リマ宣言」はベネズエラ制憲議会(ANC)を認めず▼カラカスではALBA外相会議がANC開設を祝福▼VENと中国が2030年までの投資計画を協議

 ペルー政府は8月8日リマで、親米・反べネスエラ諸国を集めて米州有志国外相会議を開いた。トランプ米政権と、その代弁者であるルイス・アルマグロOEA(米州諸国機構)事務総長の意向を受けて開くに至ったが、米国寄りの印象を和らげるため事前に調整し、米国務長官は招かれなかった。

 外相会議は7時間近く話し合った末、「リマ宣言」を採択した。①ベネスエラで4日開設された制憲議会(ANC)を認めない②OEAによる「米州民主憲章」のベネスエラへの適用努力を継続③ベネスエラへの武器禁輸を国際社会に呼び掛ける、など16項目が盛り込まれている。

 リカルド・ルナ秘外相は当初、亜パラグアイ伯智秘コロンビア巴CRホンジュラス墨グアテマラ加の12カ国が宣言に署名、と発表した。だが、その後、ウルグアイおよび、カリブ英連邦諸国のジャマイカ、ガイアナ、セントルシ-ア、グレナダの5カ国が加わり、計17カ国に達したと明らかにした。OEA加盟国は、キューバを除く34カ国であり、半数がリマ宣言に署名したことになる。

 署名した国々は、今秋の国連総会の折にニューヨークで第2回会合を開くことを決めた。

 これに対し、ベネスエラは8日カラカスでALBA(米州ボリバリアーナ同盟)外相会議を開いら。その共同声明は、①ANC開設を祝福②VENへの経済制裁・内政干渉を糾弾③反政府勢力による暴力への国際的糾弾を要求、などを表明した。

 べネスエラ、クーバ、ボリビア、エクアドール、ニカラグア、SV&G、A&B、SC&N、セントルシーア、グレナダの外相や代理が出席した。だがセントルシーアとグレナダは、「リマ宣言」に署名したとされており、情報が錯綜している。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は会議後、「我々を非難する諸国(リマ宣言署名諸国)と話し合う用意がある」と述べた。さらに、CELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)の輪番制議長国エル・サルバドールで、LAC(ラ米・カリブ)の分裂回避と統合のための首脳会議を開いてはどうか、と提案した。

 亜国の元サッカー選手ディエゴ・マラドーナ8日、「マドゥーロ大統領から命じられればベネスエラ軍の制服をまとって、自由ベネスエラのために米帝国と戦う。私は死ぬまでチャビスタ(チャベス派)だ」と表明した。これに対し、元亜国サッカー選手で保守派のマリオ・ケンペスが異議を唱えた。

 カラかスでは8日、ベネスエラ政府と中国企業代表団が、2030年までの中国による投資計画について話し合った。
  

★写真展「写真家チェ・ゲバラが見た世界」始まる▼長男カミーロ・ゲバラが開場式で挨拶▼「自撮り」含む興味深い240点▼8月27日まで恵比寿ガーデンプレイスで

 「写真家チェ・ゲバラが見た世界」写真展の開場式が8月8日夕刻、東京・恵比寿のガーデンプレイス・ガーデンルームで催された。7月下旬から来日中のカミーロ・ゲバラ=マルチ(55)が挨拶、「チェ・ゲバラが関わった歴史的事実と、写真家として撮影した被写体の両方を観てください」と述べた。

 カミーロは、革命家エルネスト・チェ・ゲバラ(1928~67)の長男で、目鼻立ちが父親にそっくり。まさに忘れ形見だ。母アレイダ・マルチ(81)が所長を務めるチェ・ゲバラ研究所でコーディーネイターとして働く。自身も亡き父親に似て写真が趣味で、いつもキャノンを携行している。この日も会場で撮りまくっていた。

 写真展は、10月6日に東京で封切られる日玖合作映画「エルネスト」(阪本順治監督、オダギリジョー主演)の関連文化行事として開かれ、チェ・ゲバラ研究所が保管する厖大な写真やネガから240点が選ばれ、展示されている。

 チェ・ゲバラが撮影したものばかりで、最期の地ボリビアに乗り込んだ日の、ラパス市内のホテルの自室での、変装した自分の顔写真をはじめとする、セルフタイマーを用いた「自撮り」シリーズや、1959年7月の来日時に訪れた広島で、被爆14年後の原爆ドーム一帯を撮ったワイド写真などが特に興味深い。マヤ文明の遺跡群の写真や、汎米競技会の選手たちの躍動する姿を捉えた作品も見事だ。

 開場式には、カミーロ夫妻のほか、阪本監督、キューバ大使館員、1959年に広島でゲバラを取材した中国新聞の林記者の遺族、崔監督、ジャーナリストらが出席した。私(伊高)は、解説、写真説明で写真展に協力した。

 カミーロは、一般公開初日の9日夕刻、開場を訪れ、同日夜、帰国の途に就く。来日後、東京でメディア取材に応じ、広島、京都を訪問。広島では8月6日の式典に出席、献花した。日本の印象を訊くと、「日本の皆さんの対応に心を打たれた」と答えた。

 写真展は8月26日まで、1100~2000。最終日27日は1100~1500。入場料1000円、大学生800円、高校生以下は無料。





 

2017年8月8日火曜日

 映画「笑う故郷」を観る▼アルゼンチンの田舎町を舞台にした破天荒な人間模様▼背景に漂う軍政期の陰▼最後に笑うのは誰か▼岩波ホールで9月16日封切りへ

 これぞ映画だ。文句なく面白い。それでいて考えさせる。アルヘンティニダー(アルゼンチン性)が十分に描かれている。亜国、南米、ラ米、スペイン語、バルセローナなどが好きな人には必見だ。

 亜国人でバルセローナ在住の作家ダニエル・マントバーニはノーベル文学賞を受賞する。世界各地から講演依頼などが殺到するが、ダニエルは40年前に捨てた生まれ故郷の田舎町からの帰郷招待を受けることにする。

 この映画は2016年の作品だが、40年前の1976年は、ホルヘ・ビデーラ将軍らがクーデターでイサベル・ペロン政権を倒し、軍政ファシズムを敷いた年である。1983年まで7年続いた軍政下で、じつに3万2000人が殺害された。ダニエルが、軍政を逃れて出国した多くの左翼、知識人、芸術家の一人であったことが、まず窺える。

 ブエノスアイレスのエセイサ空港に着くや、入道のような風貌の粗野な大男が待っていた。首都ブエノスアイレス周辺に拡がるブエノスイアレス州の「サラス」の市長から派遣された出迎えだった。軍政期の秘密警察の拷問者を連想させる、乱暴な口のきき方しかできないこの男は、パンパ(大草原)を走る道でタイヤをパンクさせるが、スペタイヤを持っていない。

 この男は便意を催すと、ダニエルの小説のページを破り取り、それを持って草むらにしゃがみ込む。この男の絡む最初の難儀の逸話が、ダニエルの帰郷の先行きが荒れ模様になることを予感させる。

 待っていたサラスの市長は好人物だ。市庁舎の壁には、故フアン・ペロン大統領と故エバ・ペロン夫人の写真が並ぶ。市長がペロン派であることを示唆している。市長は、ダニエルを「卓越した市民」(この映画の原題)として表彰し、胸像を建てる。

 だが、地元の実力者は、農牧業者協会(ソシエダー・ルラル)の面々で、伝統的に農牧業者とペロン派は折り合いが良くない。同協会員を思わせる富裕な旧友アントニオ、地元美術界のボスであるロメーロの存在がダニエルの滞在を不確かなものにする。

 ロメーロは自作の絵画がダニエルによって選考から外されるや、ダニエルを敵視、手下をも使って公然、非公然の攻撃を仕掛ける。その度を超えた激しさが、軍政期の市民迫害を想起させる。

 成り金の友人アントニオは、粗野なマチスタ(男性優位主義者)の本性を露わにする。妻がかつてのダニエルの恋人だったことが、わだかまちになって消えていないアントニオだが、娘フリアがダニエルのホテルを訪ね関係をもったことを知るや激怒。ダニエルを小型トラックの荷台に荷物のように乗せ、空港に送る。

 と、アントニオは、闇夜のパンパの道でダニエルを降ろし、走れと命じる。そして、逃げ惑うダニエルの足元をライフル銃で撃つ。だが突然、ダニエルは転倒する。フリアのボーイフレンドが狙い撃ちしたのだ。

 ボーイフレンドは大柄の若者で、野豚の鳴き声が得意だが、やはり粗野な人物。これまた軍政期の「法律外処刑」を連想させる。物語は暗転するのだが、と思いきや、舞台はバルセローナに転じる。ノーベル賞受賞後、最初の書き下ろし作品を発表する記者会見の場面だ。

 ダニエルは、胸をはだけて銃弾が貫通した傷跡を示し、フィクションとノンフィクションの狭間を記者らに悟らしめる。満面笑顔の作家は、遠い故郷の粗野で嫉妬深い人々よりも数段上手だった。笑えない話だ。

 実は、この映画は、その新作の物語を展開させる形で描かれているのだ。故ガブリエル・ガルシア=マルケスがコロンビアを描きつづけ、マリオ・バルガス=ジョサがペルーを題材とし続けているように、ダニエルも故郷の田舎町から逃れられないのだ。

 粗野ではあっても怒ることを知る純朴な田舎町の人々と、バルセローナに住み、故郷を発想源として使い続けるしたたかで富裕な作家の対比も、よく描かれている。それは、「アメリカーノ」(この場合は亜国人)と「ペニンスラル」(イベリア半島人=スペイン人)との対比でもある。

 イタリア移民の末裔らしいダニエルは、バルセローナ人、欧州人になってしまい、「アメリカーノ」(米大陸人)から見れば、「彼岸の人」にすぎない。サラス市長に閃いた「卓越した市民」の表彰は、実態のない空しいエピソードだった。だが市長は誠実さにおいては、著名人ダニエルに勝っている。しかし、誠実さが必ずしも評価されない世の中なのだ。

★「笑う故郷」は、現在「静かなる情熱」を上映中の岩波ホールで9月16日~10月27日上映される。

 

2017年8月7日月曜日

★軍事蜂起でなく準軍部隊のテロ攻撃、とマドゥーロ・ベネズエラ大統領が指摘▼米国とコロンビアで組織された、と非難▼野党連合MUD右翼も州選挙参加へ▼ボリビアがメルコスールを糾弾▼パラグアイ先住民が政治運動結成

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は8月6日、国営テレビVTVの定例番組で、同日未明起きた「軍事蜂起」について、「軍事蜂起でも何でもない。テロリズムの攻撃だった」と述べた。

 大統領は、国軍最高司令官として統合司令部に詰めて事態収拾の指揮に当たったとし、「米国とコロンビアに資金支援され組織された約20人の準軍部隊だった。陸軍部隊が3時間の戦闘を経て10人を制圧したが、他の分子は逃走中」と明らかにした。

 制圧された10人のうち2人は死亡、負傷者1人を含む8人は逮捕された。うち一人は脱走していた陸軍中尉で、自白し、情報を提供しているという。一味には、同中尉の仲間の女婿記者パトリシア・ポレオが加担している、とも明らかにした。国家に銃を向けた犯罪者は厳罰に処す、とも語った。

 マドゥーロは、国軍全部隊・全施設に警備と諜報を強化するよう命じた、と強調。「我々は1週間前には投票で勝利したが、今日は戦闘で勝った」と述べ、7月30日実施の制憲議会(ANC)議員選挙を想起させた。

 事件のあったバレンシア市内の陸軍第41機甲旅団基地上空にはヘリコプターが旋回。基地周辺は装甲車部隊が警備している。一部市民はバリケードを構築したが、国家警備隊(GNB)が撤去した。

 ANCは6日、政治的暴力事件を究明する「正義・真実委員会」に強権を与える方針を固めた。この委員会に証人喚問された者は出席を拒否できない、ことなどが定められる。

 国家選挙理事会(CNE)は同日、民主行動党(AD)に続いて、「進歩主義前衛」(AP)、「新時代」(UNT)、「まず正義を」(PJ)、「人民意志」(VP)の野党連合MUDの4党も、12月実施の州知事・州会議員選挙に参加すると明らかにした。

 MUD極右のVPとPJは、4月以来の街頭暴力の首謀者。ANC開設が既成事実となり、暴力への拒否反応が社会に強まっていることから、戦略的変更を余儀なくされたのかもしれない。国会機能がANCに吸収されれば、合法的政治基盤を失うため、手を打つことを余儀なくされたと見ることもできる。

 一方、ボリビア政府は6日声明を発表、ベネスエラの加盟資格を「恒久的停止」とした南部共同市場(メルコルール)の5日の決定について、「ベネスエラへの内政干渉と資格停止に関する処分を糾弾する」と、強く抗議した。

▼ラ米短信   ◎パラグアイ先住民が政治運動結成

 パラグアイの無混血先住民10万人の一部である1万5000人は、「パラグアイ多民族先住民政治運動」(MPIPP)を、国政選挙に参加できる政治会派として登録する準備を進めている。先住民の権利は自分たちで守るしかない、との政治的結論に基づく。 

2017年8月6日日曜日

★ベネズエラ陸軍の小集団が反政府決起し制圧さる▼カラボボ州都バレンシアの機甲旅団基地で▼制憲議会(ANC)が検事総長を解任▼メルコスールはベネズエラの加盟資格を「恒久的停止」に

 ベネスエラ中北部のカラボボ州都バレンシアで8月6日未明、陸軍部隊の一部がマドゥーロ政権打倒を目指し蜂起したが、制圧された。

 地元紙エル・カラボベーニョは、同市内にある陸軍第41機甲旅団所属のフアン・カグアリパーノ大尉以下約20人が、同旅団の本拠パラマカイ基地を占拠しようとして銃撃が展開された。屋内の床に転がる兵士の姿が映し出されている。

 4日発足した制憲議会(ANC)のディオスダード・カベージョ議員(政権党PSUV副党首)は6日、蜂起があったことを認め、「テロリスタらは制圧され、逮捕されている.他の基地では同様の事態は起きない」と表明した。

 カグアリパーノ大尉は映像メッセージで、「憲政秩序回復を目指しマドゥーロ政権を倒すため、市民に決起を求める」と呼び掛けた。この蜂起は「ダビー・カラボボ作戦」と名付けられていた。大尉らは、憲法350条が「市民不服従」 の権利を認めているとし、これを蜂起の論拠としている。

 基地周辺の道路では、ベネスエラ国旗を持ち、国歌を歌いながら歩く市民らしい人々の姿が見られた。彼らが蜂起した軍人たちを支持しているか否かは確認されていない。

 マドゥーロ政権は「文民軍人合同政権」として安定を確保してきたが、ごく僅かであるにせよ軍部の一部が蜂起した事態は極めて重大だ。しかも、政権が政治危機打開のための起死回生の策として開設したANC発足から3日目に起きた事件だ。

 ANCは5日、3月末から政権と対立していたルイサ・オルテガ検事総長を解任し、公職から追放した。オルテガは、抵抗し続けると表明、政権相手に闘い続ける構えだ。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は、暫定検事総長にオンブスマンのタレク・サアブを任命した。強権執行者と人権擁護者が同一人物という異常な人事で、批判が起きている。

 1日に自宅軟禁から刑務所に身柄を移された保守・右翼野党連合MUDの極右政治家レオポルド・ロペスと、同右翼政治家アントニオ・レデスマは4日から5日にかけて再び自宅軟禁処分となった。

 一方、南部共同市場(メルコスール)は5日、ベネスエラはANC開設により民主が失われたとして、同国のメルコスール加盟資格を、従来の「一定期間の停止」から「恒久的停止」に切り替えた。事実上の追放処分である。この決定は、トランプ米政権の意向も汲んだ南米右翼の旗頭マウリシオ・マクリ亜国大統領が主導した。 

2017年8月5日土曜日

★★★ベネズエラ制憲議会(ANC)開設成る。デルシー・ロドリゲス元外相が議長に就任▼ローマ法王庁はANC開設を止めるよう説得したが奏功せず▼ニカラグアが逸早く祝福

 ベネスエラ憲法を「加憲改定」するための制憲議会(ANC)が8月4日、国会議事堂で開設された。保守・右翼野党連合MUDが016年1月以来、圧倒的多数を握る国会(AN)と同じ議事堂内に共存することになったが、ニコラース・マドゥーロ政権の意思を代表するANCは早晩、国会にとって代わる存在になろうと準備を進めている。

 この日、7月30日の選挙で当選したANC議員のうち530人以上が出席、宣誓して就任。直ちに、デルシー・ロドリゲス議長(元外相)以下5人の執行部を選んだ。

 デルシーANC議長は就任演説し、「マドゥーロ大統領は(ANC開設によって)権力を人民に渡したことで巨人となった」と、ニコラース・マドゥーロ大統領を讃えた。現行憲法349条が、ANCは最高権力機関であり、大統領をはじめいかなる機関もANCの決定を阻止できないと規定していることを踏まえて発言だ。

 続けて、「ANCは、祖国を我がものとし新自由主義を復活させようと企む国内少数派による未曾有の深刻な紛争の中から生まれた。ANCは、暗黒の右翼独裁勢力に打ち勝った」と指摘。4月初めから続く、MUD極右と米政府が連携しての街頭暴力・破壊活動事件によって陥った危機の打開のためANC開設を余儀なくされた、という政権側の立場を示唆した。

 チャベス派民兵隊は、故ウーゴ・チャベス前大統領の大きな肖像写真と、同じく解放者シモン・ボリーバルの肖像画を国会本会議場に再設置した。16年初め、MUDが国会多数派となった際、撤去されたものだ。

 MUDは4日、カラカス市内を抗議行進したが、かつての勢いを失っていた。MUD穏健派の民主行動党(AD)が2日、他の野党諸党に先駆けて年末の州知事・州会議員選挙に参加する意思を表明するなど、MUD内の対立・分裂が表面化していることと無関係ではない。

 ANCの第1副議長には、アリズトーブロ・イズトゥーリス前執権副大統領、第2副議長にはイサイーアス・ロドリゲス元検事総長が、それぞれ就任した。このほか執行書記と副執行書記も就任した。

 ローマ法王庁は4日、ANC開設に先立ち声明を発表、「現行憲法順守を求める。新憲法制定過程は回避もしくは中断すべきだ。緊張と衝突の空気を醸成し、未来を抵当に入れることになるからだ」と、いつになく明確な調子でANC開設を思い止まるよう、マドゥーロ政権に働きかけた。だが効きめはなかった。

 ダニエル・オルテガ大統領のニカラグア・サンディニスタ政権は、逸早くベネスエラを祝福。クーバ共産党(PCC)機関紙グランマは、ANC発足の模様を細かく伝えた。

 米フロリダ州上院のある議員は、ベネスエラ原油の輸入即時打ち切りを呼び掛けた。一方、ベネスエラ国営石油PDVSAは露ロスネフト社と合弁で、VEN国内3カ所の天然がス田の調査を開始した。ベネスエラ原油は4日、1バレル=46・61ドルだった。

2017年8月4日金曜日

 「写真家チェ・ゲバラが見た世界」240点の写真展が9日開場▼東京・恵比寿のガーデンプレイス・ガーデンルームで8月27日まで▼ゲバラの忘れ形見カミーロが初日、会場に出現▼10月の映画「エルネスト」封切りに繋がる文化行事

 革命家エルネスト・チェ・ゲバラ(1928~67)は無類の写真撮影好きだった。日記や手紙を書きまくったように、人生や事象の記録としてシャッターを押していたのか。

 革命初期の新国家建設の様子を映し出した場面は貴重だ。最初の妻イルダと訪れたメヒコ・ユカタン地方のマヤ遺跡の写真も印象深い。

 「自撮り」が多いのは、自らの風貌へのナルシシズムがあったからかもしれない。再婚した妻アレイダがしばしば登場する。

 メヒコ市滞在中の1950年代半ば、母国アルヘンティーナ(亜国)の国営通信社の依頼で、汎米競技大会の競技、選手たちの躍動などを間近で撮影した、玄人顔負けの見事な写真もある。

 チェ・ゲバラが撮影した放浪時代のグアテマラ、メヒコ、革命後のクーバ、外遊先のエジプト、インド、日本、インドネシアなどの写真、および亜国での青年期から、ボリビア遠征前の1966年に至るまでにセルフターマーで取った「自画像」類を合わせた240点が、間もなく日本人の審美眼や思考を刺激することになる。

 この写真展に合わせて初来日したゲバラの長男カミーロ・ゲバラ=マルチ(55)=チェ・ゲバラ研究所コオディナドール=も、趣味で写真を撮る。滞在していた新宿マンハッタンの街並みをパチリパチリやっていた。

 カミーロは、父親が1959年7月、玖革命政府外交特使として来日した折、訪れた広島を6日の原爆記念日に訪問、式典に参加する。カミーロに東京でインタビューしたが、これは、いずれ記事として発表する。

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 写真展「写真家チェ・ゲバラが見た世界」 8月9~27日1100~2000、恵比寿ガーデンプレイス、ガーデンルームで。
 前売り券800円。当日売り一般1000円、大学生・専門学生800円。高校生以下無料。
 入場券問い合わせ 050-5533-0888。展示会問い合わせ 03-5781-7610

 
  
 

2017年8月3日木曜日

 ベネズエラ制憲議会(ANC)議員が宣誓。ANCは4日開設へ▼「米州諸国機構(OEA)に復帰する」とマドゥーロ大統領発表。外相を交代させる▼野党連合MUDの穏健派が州知事選挙参加を決定か▼電脳集計会社が「投開票の不正操作」の可能性を指摘▼腐敗まみれのブラジル大統領が弾劾裁判を免れる

 ベネスエラのニコラース・マドゥーーロ大統領は8月2日、首都カラカス市内のポリエドロ(多目的催事殿堂)で、制憲議会(ANC)議員545人の宣誓式を主宰。ANCは当初の予定2日を変更し、4日午前11時、国会議事堂で開設する、と発表した。

 大統領はまた、6月に暫定的に就任したサムエル・モンカーダ外相を、ホルヘ・アレアサ環境重視鉱業相と交代させた。アレアサ新外相は外資との難しい交渉に携わり、国際感覚が豊か、と大統領は評価。アレアサは故ウーゴ・チャベス大統領の女婿。2013~16年、執権副大統領を務めた。

 マドゥーロ大統領はまた、ベネスエラは、脱退を通告していた米州諸国機構(OEA)に復帰する、と発表した。モンカーダ前外相が、北米担当副外相兼OEA駐在大使となる。大統領は、「ワシントンに駐在し、そこからベネスエラの真実、平和主義、尊厳を防衛してほしい」と、モンカーダ大使を激励した。

 大統領はさらに、保守・右翼野党連合MUDの穏健派(非暴力派)の伝統政党、民主行動党(AD)が年末の州知事・州会議員選挙に参加する、と明らかにし、同党の決断を評価した。大統領によれば、ヘンリー・ラモス同党書記長(前国会議長)も出馬する。

 マドゥーロは、「ベネスエラは外国から政治・経済・軍事的攻撃を受けており、世界にベネスエラ防衛への支援を求める」と、国際社会に呼び掛けた。これは、ペルーのPPクチンスキ大統領が米政府の意向を汲んで8日リマで、ラ米有志国外相会議を開き、対ベネスエラ共同政策を策定しようとしているのを特に牽制したものと受け止められている。

 大統領に次ぐ政権の実力者ディオスダード・カベージョ政権党副党主は2日、国会解散と検察庁改革の可能性を指摘、MUDが15年1月取り払ったチャベス前大統領の肖像画を国会議事堂に戻す考えを示した。

 一方、米副大統領マイク・ペンスは訪問先のモンテネグロの首都ポドゴリツァで、「ベネスエラ独裁糾弾」を呼び掛けた。「独裁」呼ばわりは、米政府に軍事侵攻以外の有効的手段がなくなったことを示唆する極めて危険は表現だ。

 ベネスエラは独裁とは程遠い。独裁ならば、MUDを初め反政府勢力、反政府マスメディアなどが、これほどしたい放題に暴れたり虚偽情報を流したりすることは不可能だ。独裁とは、かつてのピノチェー智軍政のような体制を指す用語だ。米首脳の無知と苛立ちが曝け出された。

 7月30日のANC議員選挙をはじめ、これまで選挙の電脳集計を担ってきたスマートマティック社は、投開票に不正操作があった可能性がある、と公言した。これを受けてMUDは2日、ANC開設前に国会で同社責任者を証人喚問する必要があると述べた。

 欧州連合(EU)は2日、ANC開設を認めない、と表明した。亜国のアエロリネアス航空は、5日のブエノスアイレス-カラカス便の運航を取りやめ、以後、同便の運航を停止する、と発表した。米国による反ベネスエラ諸国への呼び掛けが奏功したもの。

▼ラ米短信    ◎テメル伯大統領が弾劾裁判免れる

 ブラジル国会下院は8月2日、汚職まみれのミシェル・テメル大統領を弾劾裁判にかけるか否かを採決、賛成227、反対263で、否決した。弾劾決定には定数の3分の2の342票が必要だが、遠く及ばなかった。 

2017年8月2日水曜日

 ベネズエラ制憲議会(ANC)議員545人選出。2日開設へ▼野党連合MUD右翼政治家2人、自宅軟禁から刑務所に収監▼英国大使館が自国民に警告▼ロシアは国際社会に「破壊的計画止めよ」と呼び掛け

 ベネスエラのタレク・エルアイサミ執権副大統領は8月1日、大統領政庁で閣僚評議会を主宰、ニコラース・マドゥーロ大統領に対しトランプ米政権が7月31日科した「在米資産凍結」および、内政干渉を糾弾し、マドゥーロ大統領への連帯を表明した。

 この日、制憲議会(ANC)の先住民族割り当て8議席を占める8人の議員が選出された。これにより、市・コムーナなど地域代表議員364人、職能分野別議員173人、先住民族8人の計545議員が選出された。ANCは国会議事堂に2日開設される。

 ANC議員には、大統領の先妻との間の息子ニコラース・マドゥーロ=ゲラ(27)、現大統領夫人シリア・フローレス、前外相デルシー・ドロリゲス、共産党幹部ヘスース・ファリーアスらが含まれている。

 運輸労連議長フランシスコ・トレアルバも議員に当選。「我々当選議員は、野党と対話する用意がある」と述べた。同時に、ANCは4月以来の反政府勢力による暴力事件の責任者を処罰する、とも強調した。

 諜報機関SEBINは1日未明、保守・右翼野党連合MUDの右翼幹部レオポルド・ロペス(2014年暴動教唆罪)と、同アントニオ・レデスマ(カラカス首都圏市長=停職中=)の自宅軟禁処分を停止、ラモベルデ軍事刑務所に移し収監した。2人は、自宅軟禁条件に反し政治的発言をしたため刑務所に戻された。

 MUDは、ANC開設に抗議して3日、首都で大規模な動員をかけると発表した。MUD幹部で国会議長のフリオ・ボルヘスは、「国会は(マドゥーロ政権に対抗する)新政権・新大統領を選びはしない。それは選挙民が選ぶ」と述べ、「臨時代替政権樹立」構想を否定した。

 ベネスエラ統一社会党(PSUV)を柱とする政権党連合「大愛国軸」(GPP)所属の国会議員3人は、ANCに反対して1日GPPを離れ、MUDに歩み寄り、国会内に社会主義会派を結成した。

 一方、カラカスの英国大使館は1日、同日付で英国人大使館員の家族は出国する、と発表した。またベネスエラに滞在する英国人に対しては、コロンビア国境から80km以遠に行くな、と警告した。さらに、英国人は通常の商業便で出国するのが望ましいとしながらも、政情がさらに悪化すれば航空便が止まる可能性がある、と注意を促した。

 スペインのイベリア航空は1日、政情不安により8月3日からマドリー・カラカス往復便を打ち切ると発表した。

 チレ外務省は、カラカスの同国大使公邸に、MUDが国会で任命した最高裁判事・補欠33人のうち、3人が政治亡命を求めて滞在している、と明らかにした。ベネスエラ政府は、同33人を認めておらず、追及対象としている。

 ロシア政府は1日、「国際社会は破壊的計画を止めて、外国の介入なしにベネスエラが危機を乗り越えられるように支援すべきだ」と呼び掛けた。中国やインドは、ANC開設に関し沈黙している。

2017年8月1日火曜日

 米政府がマドゥーロ・ベネズエラ大統領の在米資産を凍結▼米政府の言いなりにならない故の制裁を歓迎、と同大統領▼キューバ政府が米主導の「国際反ベネズエラ作戦」を糾弾▼MUD指導部に「過ちを正せ」と内側から要求

 米財務省は7月31日31日、米国の警告に反してベネスエラが制憲議会(ANC)議員選挙を30日実施したとして、ニコラース・マドゥーロ大統領が米施政下に保有する全資産を凍結する、と発表した。また米国人がマドゥーロ大統領と金融取引するのを禁止した。さらに、ANC議員は将来的に制裁対象になる、と表明した。同大統領を「独裁者」と決めつけた。

 大統領名義の「在米資産」がどのようなものなのかは明らかにされていない。

 米政府に「制裁」する倫理的資格はなく、「制裁」されるいわれもないとする立場のマドゥーロ大統領は、「好きなようにやればいい。VEN人民は自由になろうと決意した。私は自由な国ベネスエラの大統領だ」といなし、「米政府は、ANC選挙をするなという米国の命令に従わなかったことに怒っている。私が外国の命令に従うことはありえない。私は独立国の大統領であり、反米帝国主義だ」と強調した。

 続けて、「VEN人民は、対話、平和、対テロリズムと反無処罰の強化、脱石油依存経済の新モデル構築を図るためANC議員選挙で投票した。それゆえに制裁された」と反駁。「ベネスエラの石油を(内外)経済界の大物の手に渡さないため制裁された。天然資源を米帝から守っているがゆえに制裁された。それゆえに制裁を歓迎する」と言ってのけた。

 大統領はANC選挙に触れて、「投票機181台が暴徒に破壊され、影響が出た」と明らかにした。

   クーバ外務省は31日声明を発表、「ANC選挙はVEN人民が主権を行使し、平和、治安、独立、自決の側に決定的に賛同したことを示す。同選挙は、帝国主義、寡頭支配勢力および、残酷の最たる手段に訴えては憚らない野党勢力の戦略を打ち破った」と讃えた。また、米政府はマドゥーロ大統領に、異常かつ国際法違反で一方的な「制裁」を科した。と糾弾した。

 さらに、「米政府が指揮し、米州諸国機構(OEAのルイス・アルマグロ事務総長が支援するところの、十分に意思統一された反ベネスエラの国際的作戦がある。ベネスエラ人民を沈黙させ、その意思を否定し、攻撃と経済制裁によってベネスエラを屈服させるためだ」と指摘。

 また、「彼らはそのようにすれば、彼らが支援する傀儡野党勢力にベネスエラ人民が屈従すると信じている」と指摘。「チャベス主義者のボリバリアーナ革命を、違憲、暴力、クーデターで潰そうと謀る者には歴史的責任を科せられる」と警告した。

 一方、保守・右翼野党連合MUDに属するアントニオ・レデスマ(服役しカラカス首都圏市長資格停止中)は31日、MUD指導部宛てに公開書簡を送り、「勝利するためには指導部が過ちを正さねばならない。釈明すべきは、そうせねばならない。国会は政府に対決し続けた結果、大統領に政令政治を許してしまった」と厳しく指摘した。このようなMUD内部の批判や自己批判は珍しい。